記憶術って、実はこんなに種類がある
「記憶術」と聞くと、一部の天才だけが使う特殊なテクニック——そんなイメージを持っているかもしれません。でも実際は、学校で習った語呂合わせも立派な記憶術のひとつ。特別な才能ではなく、覚え方の「型」を知っているかどうかの違いなのです。しかも、その型は驚くほどたくさんあります。
まずは全体像:大きく「イメージ型」と「非イメージ型」の2タイプ
数ある記憶術も、ざっくり2つのタイプに分けると見通しがよくなります。ひとつは、覚えたいことを頭の中で"絵"に変えて記憶するイメージ型。場所法やストーリー法などがここに入ります。もうひとつは、語感や情報のまとまりを利用する非イメージ型。語呂合わせやチャンキングがその代表です。
「自分は絵を思い浮かべるのが得意」「いや、リズムや語呂のほうがしっくりくる」——この感覚の違いが、どのタイプが肌に合うかのヒントになります。
全部マスターしなくていい。面白そうな一つから試すのがコツ
種類の多さに、少し身構えてしまったでしょうか。でも安心してください。すべてを覚える必要はまったくありません。むしろ、あれもこれもと手を出すと中途半端になりがちです。「なんだか面白そう」と感じた型を、まずひとつだけ試す。これが遠回りに見えて、いちばんの近道です。
- 頭の中で映像を思い描くのが好き → イメージ型から
- 語呂やリズムでピンとくる → 非イメージ型から
- どちらとも言えない → 次の章の具体例を眺めてから決める
タイプの当たりがついたら、いよいよ具体的な記憶術を見ていきましょう。まずは"絵にして覚える"イメージ型からです。
【イメージ型】頭の中で“絵”にして覚える記憶術
イメージ型は、覚えたい情報を頭の中で「絵」に変えて記憶する方法です。文字の羅列より、映像のほうがずっと思い出しやすい——実は多くの記憶術がこの性質を土台にしています。
場所法(記憶の宮殿):おなじみの場所に置いて覚える王道
通学路や自宅の間取りなど、よく知っている場所に覚えたいものを順番に「置いて」いく方法です。頭の中を歩き回るだけで、置いた順に思い出せます。順序のある暗記に活きそうです。
ペグ法・連想結合法:フックに引っ掛ける・つなげて覚える
あらかじめ用意した「フック(掛け釘)」に情報を引っ掛けるのがペグ法、隣り合う項目同士をイメージでつなげるのが連想結合法です。バラバラの単語を芋づる式にたぐり寄せられます。
ストーリー法:物語にして芋づる式に思い出す
覚えたい語を登場させた短い物語を作る方法です。多少ばかばかしい展開のほうが記憶に残りやすく、買い物リストのような日常の暗記に向いていそうです。
メジャーシステム・ドミニクシステム:数字を言葉や人物に変換する
数字そのものは覚えにくいので、数字を子音や人物に置き換えて意味を持たせる方法です。年号や電話番号など、数字の暗記に強みを発揮します。
キーワード法:英単語の暗記に効くイメージ変換
英単語を、音の似た日本語+その意味の情景に変換して覚えます。語学学習と相性がよく、丸暗記が苦手な人ほど試す価値がありそうです。
- 順番どおり思い出したい → 場所法
- 単語同士をつなげたい → 連想結合法・ストーリー法
- 数字が覚えられない → メジャー/ドミニクシステム
- 英単語で苦戦している → キーワード法
絵にするのが得意な人にはイメージ型がしっくりきますが、「絵が浮かばない」という人もいます。そんなときに頼りになるのが、次に紹介する非イメージ型です。
【非イメージ型】語感や仕組みで覚える記憶術
イメージ化が苦手でも大丈夫。ここでは、頭の中で絵を描かなくても、語感やまとまり、つながりで覚えていくタイプの記憶術を紹介します。イメージ型が「合わないな」と感じた方は、こちらから試してみるのもおすすめです。
チャンキング:情報をかたまりに分けて覚える
意外に思われるかもしれませんが、人が一度に覚えられる情報の数はそれほど多くありません(心理学者ミラーが提唱した「マジカルナンバー」として知られています)。だからこそ有効なのが、バラバラの情報を意味のあるかたまり(チャンク)にまとめる方法です。電話番号を3〜4桁ずつ区切って覚えるのがまさにこれ。歴史の年号や英単語も、関連するもの同士でグループにすると、ぐっと扱いやすくなります。
語呂合わせ・頭文字法:日本人になじみ深い定番
「いい国つくろう」のような語呂合わせは、多くの人が一度は使ったことのある王道です。語感やリズムに乗せることで、無味乾燥な数字や用語が記憶に残りやすくなります。頭文字だけを並べて一つの言葉にする頭文字法も、覚える項目が多い暗記科目で活躍しそうです。
マインドマップ:関連づけて全体を俯瞰する
中心にテーマを置き、そこから枝を伸ばして関連事項を広げていくのがマインドマップです。項目同士のつながりが目で見えるので、全体像をつかみながら整理できるのが強み。試験範囲が広い単元の下ごしらえに向いていそうです。
- 数字やリストが覚えにくい → チャンキング
- 年号や用語をピンポイントで覚えたい → 語呂合わせ・頭文字法
- 範囲が広くて全体を整理したい → マインドマップ
こうしたイメージに頼らない方法に、次の章で紹介する科学的な覚え方を組み合わせると、さらに定着しやすくなります。
記憶術と一緒に使うと効く「科学的な覚え方」
記憶術で情報を「入れる」工夫をしても、時間が経てば少しずつ薄れていきます。そこで頼りになるのが、心理学の研究で効果が確かめられてきた「覚え方の土台」です。意外に思われるかもしれませんが、覚える回数を増やすより、思い出す・間を空けるといった工夫のほうが定着につながりやすいことが、「テスト効果」や「分散効果」として知られています。記憶術と組み合わせると、力を発揮しやすくなります。
分散学習(間隔反復):時間を空けて復習するほど忘れにくい
一気に詰め込むより、日をまたいで少しずつ復習するほうが忘れにくい、という考え方です。一度覚えたことを翌日・数日後・一週間後と間隔を広げながら見直すと、記憶がゆるやかに残りやすくなります。これはエビングハウスの忘却曲線の研究以来「分散効果」として知られる考え方です。試験直前の一夜漬けより、早めに始めて小分けにするほうが向いていそうです。
アクティブリコール:思い出す練習がいちばん強い
教材を読み返すだけでなく、いったん閉じて「何が書いてあったか」を自分で思い出す。この「思い出す作業」そのものが記憶を強めることは、「テスト効果(検索練習)」として研究されています。場所法やストーリー法で覚えた内容も、あとで何も見ずにたどり直す時間を作ると、ぐっと定着しやすくなります。
インターリーブ・二重符号化:交互に、言葉+イメージで
似た問題ばかり続けるより、種類を混ぜて交互に取り組むと応用が利きやすい、というのがインターリーブ。二重符号化は、言葉とイメージの両方で覚える工夫で、まさにイメージ型の記憶術と相性が良い覚え方です。
- 復習はいつも直前にまとめて → 分散学習を試したい
- 読み返すだけで満足しがち → アクティブリコールを足したい
- 同じ問題を繰り返すのが好き → インターリーブを一度試したい
こうした土台を意識できると、次に見ていく「目的・場面別の選び方」も、より自分に引き寄せて考えやすくなります。
目的・場面別|どの記憶術が肌に合う?
同じ記憶術でも、覚えたい中身によって相性は変わります。「どれが一番いいか」ではなく、「この場面ならどれが動きやすいか」で選ぶと、無理なく続けやすくなります。
暗記科目・年号や単語を覚えたいとき
歴史の年号や英単語のように、バラバラの情報を数多く覚えたいときは、語呂合わせや頭文字法が入り口として気楽です。英単語なら、意味をイメージに変えるキーワード法も相性がよいでしょう。意外に思われがちですが、覚える工夫よりも、少し時間を空けて思い出すアクティブリコールと分散学習を足すほうが定着に効くケースが多い、とされています。
資格試験で大量の項目を整理したいとき
範囲が広く、項目同士のつながりを押さえたい試験勉強では、マインドマップで全体を俯瞰しつつ、順番のある手順は場所法やストーリー法で流れごと覚える、という組み合わせが活きそうです。情報をかたまりに分けるチャンキングも、分厚いテキストを扱いやすくしてくれます。
日常のうっかり防止に使いたいとき
買い物リストや持ち物の抜け漏れ対策なら、大がかりな準備はいりません。玄関やリビングなど、いつもの場所に覚えたいものを「置く」場所法は、こういう日常の一場面でこそ気軽に使えそうです。
- 単語・年号をたくさん → 語呂合わせ・キーワード法+アクティブリコール
- 広範囲を整理したい → マインドマップ+場所法
- 生活のうっかり防止 → 場所法をゆるく
覚えたい場面が見えてきたら、あとは最初の一歩をどう踏み出すかです。
まずは気になった一つから、試してみよう
ここまで読んで「種類が多くて、結局どれがいいの?」と迷ってしまったかもしれません。でも、心配はいりません。記憶術は全部そろえる必要はなく、気になった一つを試すところから始めれば十分です。
最初は1つの型に絞ると習得しやすい
あれもこれもと欲張ると、どの覚え方も中途半端になりがちです。まずはイメージ型・非イメージ型のどちらでもよいので、「面白そう」と感じた一つに絞ってみましょう。場所法が気になったなら通学路を思い浮かべて、語呂合わせが好きなら覚えたい年号から、といった具合です。一つの型に慣れて手ごたえをつかめてから、少しずつ引き出しを増やすほうが、結局は早く身につきます。
意外に思われるかもしれませんが、記憶術は「向き・不向き」がはっきり分かれます。ある人に効いた場所法が、別の人には語呂合わせのほうがしっくりくる、というのはよくあること。だからこそ、口コミの評判より自分で試した感触を大事にしてほしいのです。
「覚える」より「思い出す」を意識する
そしてもう一つ。どの記憶術を選んでも、効果を左右するのは「思い出す練習」をしているかどうかです。テキストを眺めて覚えた気になるより、何も見ずに思い出そうとする時間のほうが、記憶はずっと定着します。前の章で触れたアクティブリコールや分散学習と組み合わせれば、覚えた型はさらに力を発揮してくれるはずです。
試験前の追い込みでも、通勤中のスキマ時間でも、「今日はこの覚え方で一つやってみる」くらいの気軽さで大丈夫。まずは一歩、踏み出してみてください。
- 気になる型が一つ決まった → さっそく今日から試せます
- まだ迷う → イメージ型か非イメージ型か、どちらが好みかだけ決めてみる
- 覚え方は決めた → 次は「思い出す時間」を学習に組み込む


